剱岳 別山尾根 登山ガイド|カニのタテバイ・ヨコバイと13の鎖場、剣山荘泊で挑む
「試練と憧れ」。剱岳(つるぎだけ)を語るとき、必ず出てくる言葉です。北アルプスの一般登山道のなかで、もっとも厳しいと言われる別山尾根(べっさんおね)。その名前に憧れて、イッチーは3度目の剱岳へ向かいました。
この記事は、室堂(むろどう)から雷鳥沢(らいちょうざわ)を経て剣山荘(けんざんそう)に泊まり、翌朝まだ暗いうちに山頂を目指した1泊2日の記録です。カニのタテバイ、カニのヨコバイを含む13箇所の鎖場を、写真で順番にたどっていきます。
ただ、この記事でいちばん伝えたいのは絶景ではありません。この山は、転んだら止まらない場所が延々と続きます。だからまず最初に、公式のデータで「どれくらいの山なのか」をはっきりさせておきます。そのうえで、憧れを叶えるための準備の話をさせてください。
📋 この記事でわかること
🎥 今回の剱岳、動画にもまとめています。カニのタテバイ・ヨコバイと13の鎖場のリアルを、約57分でどうぞ。ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします😊
※ 2026年7月25日〜26日のYAMAP実測値(2本の記録の合算)。コース定数38=上級の目安です。富山県の公式グレーディングでは、室堂ターミナルからの別山尾根往復が体力度5・技術的難易度Eとされています。
✨ この山行の見どころ
- ⚠️ 難易度は最高ランクのE
富山県の公式グレーディングで技術的難易度E。定義は「転落・滑落の危険個所が連続する」です。 - ⛓️ 鎖場は13箇所
登り9箇所・下り4箇所。番号順に、すべて写真で確認できます。 - 🦀 カニのタテバイとヨコバイ
登りと下りで完全に別ルート。標識と鎖の色分けを写真で解説します。 - 🏔️ 剣山荘に泊まる
シャワーも充電もある山小屋。早朝出発なら朝食は弁当に変更できます。 - ❄️ 剱沢の雪渓を5つ
7月下旬でも道を横切る雪渓が5箇所。県警は短い雪渓でも慎重な行動を呼びかけています。 - 🌸 岩と花の同居
チングルマの大群落からトウヤクリンドウまで。岩だらけの山にも花は咲きます。

山メシ隊長で、身体づくりのプロのイッチーです!今回はついに剱岳。ボクにとっては3回目だけど、正直に言うと、過去2回とは比べものにならないくらい緊張した1日だったよ。今日は「かっこいいでしょ」じゃなくて、「ここまで準備してから来てね」という話をさせてほしいんだ。

よくぞ言った。諸君、まず数字を見るのじゃ。富山県の公式グレーディングで、別山尾根の技術的難易度は最高ランクのE。定義はこうじゃ——「緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険個所が連続する」。隣の雄山がBじゃということを思えば、どれほど違う世界かわかるじゃろう。

うわー、鎖場が13箇所もあるんだって!ボク、そういうの大好きっ!先に行っちゃおうかな〜!

こら待たんか。……その「先に行っちゃおう」が、この山ではいちばん危ないのじゃ。鎖場はひとりずつ。詰めて登れば、上の者が落とした石が下の者を直撃するぞ。おぬしの「楽しい」は、みんなの安全の上にしか成り立たん。

まあまあ〜。ちゃんと降りてこられたら、下山後のごはんが待ってるからね〜。今回は雨のなか下りてきて、みくりが池温泉でうどんとラーメン。……あれ、人生でいちばん美味しかったかもしれないんだよね〜。
① まず知ってほしい|別山尾根は「E級」の登山道です
剱岳の標高は2,999m。3,000mにわずかに届かない高さですが、この山の難しさは標高ではなく、山頂に至るまでの地形にあります。
コース定数だけでなく、「富山県 山のグレーディング」(富山県が体力度と技術的難易度を数値・記号で示した公式の指標)でも位置づけを確認しておきましょう。自分の経験と照らして「今の自分に登れるか」を判断する材料になります。
体力度5・技術的難易度E。技術的難易度は最高ランクです。そしてEの定義——「緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険個所が連続する」——が、この山のすべてを言い表しています。

「危険個所がある」ではなく「連続する」——ここが肝じゃ。1箇所だけ気合を入れれば通れる山ではない。数時間にわたって、気を抜ける瞬間がほとんど無いということじゃぞ。

ボクも今回いちばん実感したのがそこなんだ。怖い場所が終わって「ふぅ」と息をついた30秒後には、もう次の鎖場が始まってる。体力より先に、集中力が削られていく感覚だったよ。
参考までに、同じ室堂を起点にした雄山は体力度2・技術的難易度Bです。前日にその雄山を歩いてきたイッチーの体感でいうと、同じ「立山黒部アルペンルートで行ける山」でありながら、まったく別物でした。

えっ、雄山と剱岳って、ほとんど隣どうしなのに?

そうじゃ。だからこそ危ないのじゃよ。同じ乗り物で同じ室堂に降り立ち、同じように歩き出せる。入口の手軽さが同じだから、出口の難しさの差が見えにくい。剱岳の事故は、この錯覚から始まることが多いのじゃ。
📉 数字で見る、この山域の現実
富山県内で1年間に起きた山岳遭難は165件・178人。統計の残る過去35年でもっとも多い数字でした。 このうち立山・剱岳の山域だけで99人(全体の55.6%)を占めています。
注目してほしいのは、その中身です。
| 山域 | 遭難者 | うち死亡・行方不明 |
|---|---|---|
| 立山 | 68人 | 1人 |
| 剱岳 | 31人 | 5人 |
遭難した人数そのものは立山のほうが多いのに、亡くなった方・行方不明の方は剱岳のほうが多い。 同じ山域でも、事故が起きたときの重さがまったく違うということです。
態様別では、いちばん多いのは転倒(55人)ですが、亡くなった方はゼロ。 一方、2番目に多い滑落(35人)では、9人が亡くなるか行方不明になっています。 別山尾根で起きるのは、まさにこの「滑落」です。
出典:富山県山岳遭難対策協議会・富山県警察「山巓」第35号(令和7年の発生状況)

……ちょっと、しんみりしちゃったね〜。でもこれ、脅かしたいわけじゃないんだよね〜。準備して、条件を選んで、引き返す勇気を持っていれば、ちゃんと帰ってこられる山だから〜。
この記事の残りは、その「準備」の話です。どんな鎖場が、どの順番で、どんな形で出てくるのか。写真で先に知っておくだけでも、当日の落ち着き方はまったく変わります。
🧭 登山届は必ず出しましょう
富山県には登山届出条例があり、剱岳周辺で12月1日〜翌年5月15日に登山する場合は、20日前までの登山届の提出が義務づけられています。夏山シーズンはこの義務期間には当たりませんが、富山県警察は「登山届を提出しましょう。行き先がわかれば行方不明時の生存確率を上げる事ができます」と呼びかけています。YAMAPやコンパスからオンラインで提出できます。
② アクセスと前泊|室堂を拠点に、剣山荘へ向かう
剱岳の別山尾根ルートの起点は室堂(むろどう)です。長野県側の扇沢(おうぎざわ)、あるいは富山県側の立山駅から、立山黒部アルペンルートの乗り物を乗り継いで標高2,450mの室堂に立ちます。
今回は前日に立山・雄山を歩き、そのままみくりが池温泉に泊まって、翌朝ここから歩き出しました。室堂に前泊しておくと、朝いちばんの時間を移動ではなく歩行にあてられます。初日に剣山荘まで入る行程では、この差が意外と効いてきます。






みくりが池温泉の朝ごはんは和食中心のバイキング。この日は行動時間が長くなるとわかっていたから、朝から遠慮なくおかわりしたよ。山では「食べられるときに食べる」が正解だからね。
この日は富山県側から入る友人と室堂で合流する予定だったので、喫茶室でコーヒーを飲みながら待ちました。一杯ずつサイフォンで淹れてくれる、山の上とは思えない一杯です。




宿泊した人は朝だけお得に飲めるんだよね〜。こういう時間があるのが、山小屋泊まりのいいところ〜。
♨️ みくりが池温泉 メモ
公式に「日本一高い場所にある天然温泉」と紹介されている、標高2,410mの宿。白く濁った硫黄の香りの湯で、源泉は地獄谷。室堂ターミナルから徒歩約15分です。喫茶・食堂は宿泊者以外も利用でき、現金のほかQRコード決済やクレジットカードのタッチ決済にも対応していました。※料金・営業時間は取材時点の目安です。最新は公式サイトでご確認ください。

補足しておくが、室堂まで乗り物で上がれるのは標高2,450mまでじゃ。剱岳の頂は2,999m。しかも一度、雷鳥沢まで200mほど下ってから登り返す。地図上の標高差だけを見て「500mちょっとか」と考えると、痛い目を見るぞ。
③ 室堂〜雷鳥沢|地獄谷を横目に、長い階段を下る
みくりが池温泉を出発し、まずは雷鳥荘の方向へ。歩き出してすぐ、左手に地獄谷が広がります。硫黄のにおいがはっきりと届く場所です。







雷鳥荘には残雪期に泊まったことがあるんだ。お風呂が2つあって、展望浴場のほうはぬるめでゆっくり浸かれるんだよね。
雷鳥荘を過ぎると、眼下に雷鳥沢キャンプ場が見えてきます。そしてここから、剱岳へ向かう人が必ず通る「あの階段」が始まります。






階段、ながっ!これ帰りに登り返すんだよね……?

そのとおりじゃ。行きは元気に下れるが、2日目の疲れた身体で、雨のなか登り返すことになる。帰りの体力を残しておくというのは、こういう場面のために言うのじゃぞ。
キャンプ場に下り立つと、トイレと水場があります。トイレはチップ制で、水洗のうえとても清潔でした。水場は水量も豊富です。









山のトイレって、けっこう心配のタネなんだよね〜。ここまで綺麗だと、それだけで気持ちがラクになるよね〜。
④ 雷鳥坂|花とライチョウ、そしてガスの中へ
雷鳥沢にかかる橋を渡って左へ。沢沿いを少し進むと大日岳方面との分岐があり、そこから雷鳥坂の登りが始まります。





登り出しからいきなり傾斜があり、足元は終始ガレ気味です。剱御前小舎までおよそ500mを登り上げる、この日いちばんの登りです。







写真だと平坦に見えちゃうんだけど、実際はけっこうな傾斜。ここは飛ばさずに、自分のリズムを守るのが正解だよ。翌日に本番が待ってるからね。
標高を上げるにつれてガスの中へ。展望はありませんでしたが、そのぶん足元の花がよく目に入ります。







おお、ライチョウじゃ。ワシの仲間じゃな。ライチョウはガスや小雨の日にこそ姿を見せることが多い。天気が悪いのも、悪いことばかりではないということじゃ。

ピンクのチングルマもあるじゃーん!タテヤマチングルマっていうんだって!

そう、タテヤマチングルマ。ふつうのチングルマより、花びらにほんのり紅が差すんだ。ボクは花の名前を覚えてから、登りのしんどさが半分になった気がするよ。……まあ、詳しさじゃ、らいちゃんには一生かなわないけどね!
石段が現れたら、剱御前小舎はもうすぐです。




⑤ 剱御前小舎|稜線に出て、剱沢側へ回り込む
剱御前小舎(つるぎごぜんごや)に到着。ここは別山乗越(べっさんのっこし)と呼ばれる稜線上の鞍部で、室堂側から来た道と剱沢側への道が交わる、この山域の交差点です。





小舎の前には公衆トイレがあります。こちらもチップ制で、紙は備え付けがありました。翌日の下山時には、ここが最後の避難場所にもなります。

実はこの小舎でYAMAPのログが切れていることに気づいてね。だからこの山行、記録が2本に分かれてるんだ。こういうこともあるから、ログは時々確認しておくといいよ。
ここから剣山荘までは、剱沢側の斜面をトラバースしていきます。小舎を出てすぐ、いきなり最初の雪渓が現れました。





ここまで来たら、もう剱岳が見えるんじゃないの〜?

……今日はガスで真っ白なんだよね〜。でもね、見えないぶん明日のお楽しみが増えたと思えばいいんだよ〜。

ここからが本題じゃ。剱沢の雪渓は、シーズン後半まで残る大規模なものでな。富山県のグレーディングにも「表面の凍結やクレバス、シュルンド、スノーブリッジ崩落など、変化が激しく、致命的な事故の原因となります」と明記されておる。その年、その日によって条件がまるで違う。おぬしらが行く日の情報は、おぬしらで集めるのじゃぞ。
⑥ 剱沢のトラバース|5つの雪渓とチングルマの海
剱御前小舎から剣山荘までのあいだに、道を横切る雪渓が5箇所ありました。7月下旬に歩いたときは、いずれも幅がしっかりあり、ステップも切られていて、通過する人は全員がツボ足(滑り止めなし)で歩いていました。







……が、ここは正直に書いておかねばならん。富山県警察の夏山情報には「短い距離の雪渓でもアイゼンやピッケルを使用するなど、慎重な行動管理をお願いします」とある。「この日は要らなかった」は、おぬしが行く日に要らない理由にはならんのじゃ。

そうだね。ボクも今回は使わずに通過したけど、チェーンスパイクはちゃんとザックに入れていったよ。持っていって使わないのと、持っていかないのは、まったく別の話だからね。
雪渓の通過と、その日のルート判断に効いた2つです。 滑り止めは「持っていったけれど使わずに済んだ」がいちばん良い結果。地図は剱・立山エリアのものを選んでください。
雪渓のあいだは、チングルマの大群落が続きます。ガスで展望がないぶん、足元がずっと華やかでした。











ガスで何も見えないのに、足元だけはこんなに賑やかなんだよね〜。これはこれで、贅沢な歩き方だと思うんだ〜。

またライチョウ!しかもヒナがいる!かわいいーっ!
4つ目の雪渓は下り基調で、少し身構える場所でした。ただ実際に歩いてみると階段状にステップが切ってあり、思ったよりも歩きやすい状態でした。









雪渓を渡り終えた直後のガレ場にも気を配るのじゃ。夏道が出ていない箇所では、上の者が落とした石がまっすぐ下の者へ飛ぶ。絶対に真下に人がいる状態で通過してはならん。


⑦ 剣山荘に泊まる|シャワー・充電、そして翌朝の弁当
剣山荘に到着しました。別山尾根を登る人の多くが拠点にする山小屋です。ここから登山道に取り付けるので、翌朝のアプローチがとても短くなります。





🏔️ 剣山荘 メモ
開設期間は7月1日〜10月上旬で、完全予約制です。料金は1泊2食付14,000円/1泊夕食付13,000円/素泊まり10,500円/弁当1,000円。金土日・祝日前日・お盆は繁忙日で1,000円追加になります。朝食は5:30からで、それより早く出発する場合は、朝食の代わりの弁当を前日の夜のうちに受け取れます。電話は076-482-1564。※料金・営業時間は取材時点の目安です。最新は各公式サイトでご確認ください。(以降の金額も同様です)
この小屋のありがたいところは、設備が驚くほど整っていることです。充電コーナーは無料で、モバイルバッテリーは小屋が用意してくれた防火袋に入れて充電します。洗面台では歯磨き粉や石けんが使え、水は飲むこともできます。






🛜 剣山荘は「山小屋Wi-Fi」が使えました
充電できても電波が無ければ連絡もできません。剣山荘では衛星通信を使った「au Starlink 山小屋Wi-Fi」(KDDI/Wi2が提供)が導入されていて、実際につながりました。公式の対応小屋一覧にも剣山荘の名前があります。
| 料金 | auは無料。UQ mobile・povoは無料の対象外で、300円(2時間)/600円(24時間・いずれも税込) |
|---|---|
| 24時間券 | 有効時間はクレジットカード決済が完了した時点からのカウント。しかも小屋ごとに買い直す必要はなく、24時間以内なら別の山小屋でも、Wi-Fiが入っていればそのまま使えます。小屋を移動する縦走の日ほど、この600円が効きます。 |
| つなぎ方 | まずSSID「Entry」に接続 → 表示される案内に従って設定 → auは「0001au」、それ以外は「yamagoya_Wi2」へ接続 |
| 電波の入り | 充電コーナーのあたりでは3本しっかり立ちました。ただし2階の居室に入ると届きません。1階の受付まわりがいちばん強いようで、「部屋でつなぎ放題」ではないのでご注意を。 |
| 注意 | 山の上の通信なので、天候や混み合う時間帯には不安定になることもあります。あてにしすぎず、家族への下山連絡は余裕をもって。 |
もうひとつ驚いたのが、夜もつながり続けたこと。多くの山小屋は消灯とともに自家発電が止まり、Wi-Fiも使えなくなります。剣山荘では夜間も使えました。館内の案内では談話室兼食堂が24時間利用できるので、そのための配慮なのかもしれません(小屋に確認したわけではないので、ここはボクの推測です)。連絡や翌日の天気チェックは、電波の強い1階で済ませておくのが確実です。
充電のルールは小屋ごとに違います。双六小屋ではモバイルバッテリーの持ち込みが禁止になった一方、剣山荘は防火袋を貸してくれる方式。泊まる小屋の最新ルールは出発前に確認しておくと安心です。
※対応する山小屋・料金は変わることがあります。最新はau Starlink 山小屋Wi-Fi 公式サイトでご確認ください(2026年7月時点の情報)。
そしてシャワーがあります。環境保全のため石けんとシャンプーは使えませんが、汗を流せるだけで翌日の気持ちがまるで違います。






山の上でシャワーだよ〜。しかもお湯がちゃんと熱いんだよね〜。こういうのって、体をきれいにする以上に、心がリセットされる感じがするよね〜。
2階が客室で、全部で12部屋ほど。廊下に棚があり、ザックはそこに置きます。この日は8人部屋を仲間だけで使わせてもらえました。

部屋に入って、まず靴下を脱ぐ瞬間。……実はここ、毎回ちょっと身構えるところなんだ(笑)。この日は雷鳥坂で剱御前小舎まで500mを登り上げて、剱沢では雪渓を5つ渡ってきた。靴の中はずっと蒸れっぱなし。それなのに、自分でもびっくりするくらいニオイが気にならなかったんだよね。

あっ、ボクも同じっ!朝に足指さらさらクリームを塗ってきたんだけど、ホントに気にならないじゃーん!山小屋って相部屋だから、これ地味にうれしいっ!

そう、山小屋は基本が相部屋。自分では気づきにくいけど、まわりは案外気になるものだからね。ボクは山行の朝、靴下をはく前に指のあいだまでしっかり塗っておくようにしてる。濡れた日ほど、やっておいてよかったと思うよ。
使っているのはデオナチュレの「薬用 足指さらさらクリーム」。メーカーの公式サイトでは「しっかりぬれて 足特有のムレ・ニオイを防ぐ」と説明されている、薬用(医薬部外品)のクリームです。感じ方には個人差がありますが、雪渓の渡り歩きと雷鳥坂の登りで汗をかいた1日でも、ボクは小屋に着いてから気になりませんでした。相部屋の山小屋に泊まる日は、朝いちばんに塗っておくのがおすすめです。ボクが使っているのは男性用ですが、性別を問わず使える「足用」はクリームとスティックの2種類。指のあいだまでしっかり塗るならクリーム、出発前にサッと済ませたいならスティックが手軽です。







ここ、地味だけどすごく大事なポイントなんだ。剱岳のアタックの日は、大きなザックを廊下の棚に置いていけるんだよ。だから当日は、必要なものだけを小さなザックに詰めて登れる。あの鎖場を大荷物で行くのとは、安全性がまったく違うんだ。

これは強調しておきたい。カニのタテバイもヨコバイも、身体を岩に近づけられるかどうかが安全を分ける。背中の荷物が大きいほど、身体は岩から引き剥がされるのじゃ。小屋にデポできる利点は、必ず使うのじゃぞ。
大きなザックは小屋に置き、アタックには小さなものを。この使い分けができるのが、剣山荘に泊まる大きな利点です。
夕食は3回に分かれる時間制で、この日は最初の回でした。品数が本当に豊富で、ごはんは3杯いただきました。








翌朝は暗いうちに出るから、朝食はお弁当に変更してもらったんだ。受け取りは夕食のあと。ここで受け取り忘れると朝が悲しいことになるから、忘れずにね。
そして出発の朝。食堂は24時間開放されていて、早朝でも電気がついていました。オニオンスープとお茶が用意されているのもありがたい配慮です。





朝ごはんというか、深夜ごはんだよね〜。眠くても、ここで食べておかないと後半でガス欠になるから〜。
⑧ いよいよ本番|1〜4番の鎖場と前剱
まだ暗いうちに剣山荘を出発しました。剱岳を別山尾根から往復する場合、富山県のグレーディングでコースタイムは13.2時間。山小屋泊であっても、早い時間に歩き出すのが一般的です。

なぜ暗いうちに出るのか。理由は3つじゃ。①午後の雷を避ける ②渋滞する鎖場を早い時間に抜ける ③もし何かあったときに、明るい時間を長く残しておく。3つ目がいちばん大事じゃぞ。

でも暗いなかで鎖場って、逆に危なくない?

よい問いじゃ。じゃからこそヘッドランプは明るいものを、予備電池と一緒に持つ。そして暗い時間帯はマーキングの見落としが起きやすい。少しでも不安を覚えたら、その場で立ち止まって周囲を見回すのじゃ。「たぶんこっち」で進んではならん。

よし、行こうか。ここから先はボクが前を歩くよ。怖いと思ったところは、我慢しないで声をかけてね。止まるのは恥ずかしいことじゃないから。焦らず、ひとつずつ。全員そろって帰るのが、今日のゴールだよ。
暗いうちに歩き出すなら明るいヘッドランプを。そして別山尾根では、ヘルメットは装備の前提として考えてください。




1番目の鎖場は、鎖を使わずに歩くこともできる程度のものです。ただしここから、登り9箇所・下り4箇所の合計13箇所の鎖場が始まります。




2番目の鎖場は、そこそこ長さがあります。鎖を使っても使わなくても通過できる区間ですが、暗い時間帯は素直に鎖を頼ったほうが確実です。
登り切ると一服剱(いっぷくつるぎ)。名前のとおり一息つける場所ですが、ここからいったん大きく下ります。







この「せっかく登ったのに下る」がけっこう精神的にくるんだよね。しかも帰りはここを登り返すことになる。剱岳が体力度5なのは、この上下動の多さが効いてるんだと思うよ。
下りきると、目の前に前剱大岩(まえつるぎおおいわ)が現れます。写真では伝わりにくいのですが、見上げるほどの大きさです。






この大岩の足元から3番目の鎖場が始まる。傾斜が急で、13箇所のなかでもっとも長い。ここは声を掛け合ってひとりずつ登るのじゃ。鎖の支点を目で確かめながら、前の者に詰めすぎぬようにな。
4番目の鎖場は短くあっけなく終わり、前剱(まえつるぎ)の山頂に着きます。ガスが一瞬抜けた瞬間、これから登る剱岳本峰が姿を見せました。





うわあ……あそこ登るの?めちゃくちゃ尖ってるじゃーん……。

ちなみにこの写真のボク、トレードマークのサングラスを小屋に忘れてることにまだ気づいてないんだ。深夜出発あるあるだね。出発前の持ち物確認は、前の晩のうちにやっておくのがおすすめだよ。
⑨ 前剱〜平蔵のコル|一本橋と5〜8番の鎖場
前剱を過ぎると、いよいよ最初の難所です。岩場を下りたところに、両側が切れ落ちた一本橋が架かっています。






こっ、これ渡るの……?両サイド、なんにも無いじゃん……。

落ち着け。橋そのものは、まっすぐ歩けば渡れる幅がある。危ないのは下を覗き込んで動けなくなることじゃ。視線は足元と、次に足を置く場所だけに置く。それ以上は見んでよい。
橋の先が5番目の鎖場。岩に沿って真横に進んでいきます。足場が狭く、この日は朝露で鎖が濡れていました。右下は完全に切れ落ちています。






正直に言うと、ボクがこの日いちばん怖かったのはここかもしれない。濡れた鎖は、握力が同じでも滑るんだ。グローブは絶対に持っていってほしい。素手だと痛くて握り込めないし、濡れると本当に危ないよ。
鎖を握る手と、濡れた岩を踏む足。この2つが別山尾根の生命線です。グローブは滑り止め付きのものを。
6番目の鎖場は下降する形。岩が濡れていて、見た目以上に滑りました。その先で一度ひと息つける場所があり、ここから剱岳本峰へ向けて再び登りに転じます。







怖い場所が続くと、ちょっと歩きやすいだけの道でも天国に思えてくるんだよね〜。感覚がだんだんバグってくる感じ〜。
ここで大事な場所が現れます。登りと下りのルートが交差する地点です。







よく見よ。左に見えておる鎖は下り専用じゃ。別山尾根は、要所で登りと下りの鎖が分けられておる。標識と鎖の位置をきちんと確認せずに取り付くと、狭い岩場で正面から人とすれ違うことになる。これがいちばん危ないのじゃ。
7番目の鎖場「平蔵の頭(へいぞうのかしら)」。ほぼ真上に登り、登り切ったと思ったら今度は下ります。打ち込まれた杭に足を乗せて進みますが、この杭が濡れているとよく滑ります。







8番目の鎖場「平蔵のコル」は意外と短く終わります。ここも登りと下りで使う鎖が違うので、標識をよく確認してください。

この区間、鎖が無い場所もずっと切れ落ちてるんだ。「鎖がある=危ない場所」「鎖が無い=安全な場所」じゃないんだよね。むしろ鎖の無い区間のほうが、気が緩みやすいぶん危ないかもしれない。
⑩ カニのタテバイ|9番目の鎖場
頂上を示す矢印が現れたら、その先が二つ目の難所です。剱岳といえば、のカニのタテバイ。9番目の鎖場です。






ほんとに真上に登っていくんだ……!ボク、ここは真面目にやるっ!

そうじゃ、それでよい。ここでの鉄則は3つ。①三点支持を崩さぬこと ②前の者との間隔を十分にあけること ③絶対に鎖を跨いだり、鎖に体重を預けきったりしないこと。鎖は補助であって、命綱ではないのじゃ。
写真では余裕そうに見える仲間もいますが、これは経験を積んだ人の動きです。初めて登る場合は、まねをせず、両手をしっかり使って登ってください。

ここ、渋滞することもあるらしいんだよね〜。後ろに人が並ぶと、それだけで急ぎたくなっちゃうから〜。

よい着眼じゃ。後ろを待たせている、という焦りがいちばん危ない。急かす者がおっても、おぬしはおぬしの速さで登ってよい。落ちてしまえば、待たせた時間どころの話ではないのじゃからな。








タテバイを越えても、まだ岩場の登りは続くんだ。ここで気をつけたいのが「終わった」と思ってしまう気の緩み。大きな難所を越えた直後って、どうしても集中がふっと切れるんだよね。ボクは大きな核心を抜けたら、意識して一度立ち止まって呼吸を整えるようにしてるよ。
⑪ 剱岳 山頂(2,999m)
山頂に到着しました。いくつもの標識が並び、賽銭箱があります。ここまで来られたことに手を合わせ、そして無事に降りられるようお願いしました。





着いた——!みんな、本当によく登ってきたね!ボクがいちばん嬉しいのは、ここまで誰ひとり気を抜かずに来られたこと。この一歩一歩が、そのまま帰り道の安全になるんだよ。

やったー!着いたー!……あれ、なんだかボク、登る前よりちょっとだけ静かな気持ちかも。

ボクは3回目の剱岳。でも今回がいちばん難しく感じたよ。天気、岩の状態、そのときの体調。同じ山でも、条件が違えば別の山になる。「前に登れたから大丈夫」は通用しないんだって、あらためて思ったな。

そして諸君、ここで覚えておくのじゃ。山頂は、行程のちょうど半分でしかない。剱岳の事故の多くは下りで起きる。ここからが本番じゃぞ。

登頂の写真を撮ったら、気持ちをもう一回きゅっと締め直すんだよね〜。
⑫ カニのヨコバイ|下りこそが本番
下りの最初の難所が、10番目の鎖場「カニのヨコバイ」です。岩壁を横向きに移動していく区間で、最初の一歩の足場が上からは見えないことで知られています。






ヨコバイが怖いのは、高度感よりも見えないことじゃ。焦って足を探ってはならん。鎖をしっかり握り、身体を岩に寄せ、先に通過した者に足場の位置を教えてもらうのも立派な方法じゃぞ。
そして、ヨコバイの直後に現れるのがほぼ垂直のハシゴです。ここから雨風が強まり、手すりも完全に濡れていました。






この日は下りの後半がずっと雨だった。ボクが伝えたいのは「気をつけて下りよう」じゃなくて、そもそも登る日を選ぼうということなんだ。剱岳は逃げないからね。天気予報が微妙なら、次の機会にする。その判断ができる人がいちばん強いと思うよ。
少し下ると避難小屋があります。中には簡易トイレが置ける空間もあり、いざというときには心強い存在です。


下山ルートでは11番目「平蔵のコル」・12番目「平蔵の頭」・13番目「前剱の門」と鎖場が続きます。このうち12番・13番は登り返しになるので、下りよりは気持ちがラクでした。










「うき石」の表示があったら、絶対に触れてはならん。自分が落ちなくとも、落とした石が下の登山者を直撃する。この山で最も避けねばならんのは、加害者になることじゃ。
前剱の山頂付近と前剱大岩の周辺は、道が狭く、落石による事故も多い場所です。上部に登り専用の道が通っているため、上からの落石に注意しながら通過します。




岩と鎖ばっかりの一日だったけど、こんなところにもトウヤクリンドウが咲いてるんだ。夏の終わりを知らせる花で、ボクはこれを見ると「今年の夏も歩いたなあ」って気持ちになる。下を向いて歩いてると見逃しちゃうから、ひと息ついたときに足元を見てみてね。

……ボク、今日はちゃんとゆっくり歩いたよ。えらい?

うむ、たいへんえらい。おぬしのその判断が、いちばんの装備じゃ。
⑬ 豪雨の下山|剣山荘から雷鳥坂を登り返す
一服剱まで戻り、剣山荘へ。ここで登頂記念のバッジを買いました。雨がポツポツと降り始めていたので、荷物を回収して早めに動きます。


そこからは、雨との戦いでした。剱御前小舎まで戻ったころには本降りになっていて、小舎でカップヌードルを食べて体を温めました。




冷えた身体に、あったかいスープ。こういうときのカップ麺って、なんであんなに沁みるんだろうね〜。

笑いごとではないぞ。雨と風で体温を奪われた状態は、そのまま低体温症への入口じゃ。夏だからと薄着で来てはならん。濡れた身体は、動きを止めた瞬間から一気に冷えていくのじゃからな。
この点は富山県警察も夏山情報で明確に呼びかけています。「様々な環境変化に耐えられるウェアや装備(雨具、ダウンジャケット、予備肌着、ツェルト等)を携行しましょう」——真夏の北アルプスであっても、防寒着と予備の肌着は省かないでください。
雷鳥坂の下りは、道が川のようになっていました。この日はたまたま風が弱かったので傘をさして歩けましたが、吹かれていたら使えなかったと思います。





ザックカバーは早めにかけるのが鉄則だよ。降り出してからかけると、もう中は濡れ始めてる。この日は「怪しいな」と思った時点でかけたから、着替えを守れたんだ。
雨は下山時にこそ来ます。ザックカバーは容量に合うものを、傘は風に強い山用のものを選んでください。

傘が使えるのは、風の弱い樹林帯や緩い斜面までじゃ。稜線や鎖場では両手が塞がるゆえ、頼るのは結局レインウェアになる。上下そろえて持つこと。下だけ省く者が多いが、濡れた太ももから体温は容赦なく逃げていくのじゃぞ。
この日の下りは、剱御前小舎から雷鳥沢までずっと雨でした。上下そろったレインウェアがあるかどうかで、行動できる時間がまるで変わります。

こんな土砂降りなのにライチョウがいたよ!3日連続だー!
⑭ みくりが池温泉で打ち上げ|下山してからが本番
雷鳥沢まで下り、長い階段を登り返して、この日の宿であるみくりが池温泉に戻ってきました。2泊のうちの2泊目です。



まずはランチ。富山うどんと白エビラーメンをいただきました。剱岳から無事に降りてきたあとだったので、味は言うまでもありません。





ボク、今日はいっぱい我慢したから、その分いっぱい食べるっ!

うむ、よい。……しかしのう、こうして温かいものを食べられておるのは、おぬしらが一つひとつ丁寧に鎖を握ってきたからじゃ。山は、無事に降りて初めて「良い山だった」と言えるのじゃよ。

ほら言ったでしょ〜、下山してからが本番って〜。白エビラーメン、富山らしくてこれがまた良いんだよね〜。ぷはぁ〜。


そして夕食。2日前にも泊まっていたので、そのときとメニューが重ならないように配慮してくださっていました。こういう気配りができる宿だから、また来たくなるのだと思います。




登って、下りて、温泉に入って、食べて、眠る。この日のごはんは、たぶん一生忘れないと思うな。
⑮ イッチーの山旅セット|岩と鎖の山へ持っていったもの
今回の剱岳に連れていった相棒たちです。岩と鎖に張りついている時間が長いぶん、身体から離れないもの・濡れても機能するものを軸に選んでいます。

装備の話でひとつだけ言わせてくれ。この山では「持っていない」ことが、そのまま引き返す理由になる。ヘルメット、グローブ、雨具、明かり。この4つを欠いたまま別山尾根に入ってはならんぞ。

ボクは軽くしたいから、つい削っちゃうんだよね〜。どれなら減らせるの?

……たぶん、その質問の答えが「減らせるものは無い」なんだよね〜。剱岳に持っていくものって、どれも「使わずに済めば一番いい」ものばっかりだから〜。
持ち物チェックリスト(剱岳・別山尾根/山小屋泊)
- ヘルメット(別山尾根では前提の装備)
- 滑り止め付きのグローブ(濡れた鎖を握るため)
- 明るいヘッドランプ+予備電池(深夜出発用)
- レインウェア上下+ザックカバー
- 防寒着(ダウンなど)と予備の肌着
- チェーンスパイク(雪渓の状態次第)
- 行動食と水(小屋で補給可)
- 山と高原地図(剱・立山)とスマホの地図アプリ
- モバイルバッテリー
- 健康保険証・登山届の控え
- ファーストエイドキット
- 小銭(トイレのチップ用)
⛰️ 剱岳で鎖場に慣れたら、次の一座に南アルプスの塩見岳(鳥倉ルート1泊2日)もおすすめです。山頂直下の岩場で、ここでの経験がそのまま活きます。
⑯ よくある質問(FAQ)
Q1. 剱岳・別山尾根は初心者でも登れますか?
おすすめできません。富山県の公式グレーディングで技術的難易度は最高ランクのE、その定義は「緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険個所が連続する」です。鎖場やハシゴのある山(技術的難易度C〜D)を天候の悪い日も含めて何度か経験し、三点支持で岩場を安定して登り下りできること、そして高度感のある場所で自分が固まらないと分かっていることが前提になります。まずは同じ室堂を起点にできる雄山(体力度2・技術的難易度B)などで経験を重ねてください。
Q2. 鎖場は何箇所ありますか?
別山尾根には全部で13箇所の鎖場があります。登りで9箇所、下りで4箇所です。登り9箇所のうち、9番目がカニのタテバイ。下りの10番目がカニのヨコバイで、その直後にほぼ垂直のハシゴが続きます。11番「平蔵のコル」、12番「平蔵の頭」、13番「前剱の門」が下山専用ルートで、1〜4番と6番は登り下りの共有区間です。
Q3. カニのタテバイとヨコバイは、同じ場所を往復するのですか?
いいえ、別の場所です。カニのタテバイは登り、カニのヨコバイは下りで通過します。別山尾根では要所で登り用と下り用の鎖が分けられており、現地には「下山」などの表示と、使う鎖を示す案内があります。狭い岩場で正面からすれ違うことにならないよう、標識を必ず確認してから取り付いてください。
Q4. ヘルメットは必要ですか?
別山尾根では、装備の前提として考えてください。落石が起きやすい地形で、実際に前剱大岩の周辺は「落石による事故も多い場所」として現地でも知られています。自分が落とさないための行動(詰めて登らない、うき石に触れない)と合わせて、上から落ちてきたときに頭を守る手段を持っておくことが大切です。
Q5. 日帰りはできますか?山小屋に泊まるべきですか?
室堂ターミナルから別山尾根を往復する場合、富山県のグレーディングではコースタイム13.2時間・体力度5とされ、体力度4〜5は「1泊以上が適当」に区分されています。剣山荘や剱沢小屋などに前泊し、翌朝早い時間に山頂を往復する行程が現実的です。山小屋に泊まると大きな荷物を置いて登れるので、安全面でも有利になります。
Q6. 剣山荘の予約方法と料金は?
完全予約制です。開設期間は7月1日から10月上旬で、料金は1泊2食付14,000円、1泊夕食付13,000円、素泊まり10,500円、弁当1,000円。電話は076-482-1564で、ウェブからも予約できます。朝食は5:30からのため、それより早く出発する場合は前日の夜に弁当を受け取る形になります。
Q7. 雪渓の通過にチェーンスパイクは必要ですか?
7月下旬に歩いたときは、剱御前小舎から剣山荘までの5箇所の雪渓を、通過していた人は全員が滑り止めなしで歩いていました。ただし富山県警察は夏山情報で「短い距離の雪渓でもアイゼンやピッケルを使用するなど、慎重な行動管理をお願いします」と呼びかけています。剱沢の雪渓は年や時期で状態が大きく変わるため、携行したうえで当日の状況と山小屋の情報で判断するのが安全です。
Q8. 登山届は必要ですか?
富山県登山届出条例により、剱岳周辺では12月1日から翌年5月15日に登山する場合、20日前までの提出が義務づけられています。夏山シーズンはこの義務期間には当たりませんが、富山県警察は「登山届を提出しましょう。行き先がわかれば行方不明時の生存確率を上げる事ができます」と呼びかけています。YAMAPやコンパスからオンラインで提出できます。
Q9. なぜ暗いうちに出発するのですか?
理由は3つあります。午後に発生しやすい雷を避けること、混雑する鎖場を早い時間に通過すること、そして万一トラブルが起きたときに明るい時間を長く残しておくことです。ただし暗い時間帯はマーキングの見落としが起きやすいので、明るいヘッドランプと予備電池を必ず用意し、少しでも不安を感じたら立ち止まって確認してください。
Q10. 雨の日でも登れますか?
おすすめできません。この日は下りの後半が雨になり、鎖もハシゴも岩も濡れて非常に滑りやすい状態でした。富山県内の遭難を態様別に見ると、いちばん多い転倒(55人)では亡くなった方はいませんが、2番目に多い滑落(35人)では9人が亡くなるか行方不明になっています。別山尾根で起きる事故はこの滑落です。天候が微妙なときは、登らない判断も立派な選択です。
まとめ|「登った」ではなく「帰ってきた」で完結する山
剱岳の別山尾根は、装備と経験と、その日の条件がそろってはじめて歩ける道でした。13の鎖場は、どれも「そこだけ頑張れば終わり」ではなく、気を抜けない時間がひたすら続いていく——それが、この山のいちばんの難しさだと思います。
それでも登ってよかったと心から思えるのは、山頂で手を合わせた瞬間よりも、雨のなか無事に小屋まで戻ってきたときでした。「登った」ではなく「帰ってきた」で完結する山なのだと、3回目にしてようやく腑に落ちた気がします。
この記事を読んで「行きたい」と思ってくださったなら、とても嬉しいです。そのうえで、どうか焦らないでください。鎖場のある山をいくつか経験して、悪天候の日の岩の滑り方を知って、小屋を予約して、装備をそろえて、天気を選んで。準備を積み重ねた先で会う剱岳は、きっと最高の一座になります。

ボク、今回はいっぱい怖かったけど……でも、ちゃんと帰ってこられたのがいちばん嬉しかったな。

諸君の山行が、無事に終わることを願っておるぞ。焦らず、条件を選び、引き返す勇気を持って行くのじゃ。
YAMAPの活動記録はこちら(小屋でログが切れたため2本に分かれています) → みくりが池温泉→剱御前小舎/試練の剱岳
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・【立山GW完全ガイド】雪の大谷・みくりが池温泉・猛吹雪の帰路(後編)
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