白馬岳は「はくば」か「しろうま」か——山頂に“日本初の小屋”を建てた人たちは、なんと呼んだか
ボクは YouTube で、白馬の山をずっと「はくば」と呼び続けています。白馬岳(はくばだけ)、白馬三山(はくばさんざん)、白馬大雪渓(はくばだいせっけい)……。これは何となくではなく、ちゃんと“訳(わけ)”があってのことです。
もちろん、「それは“しろうま”だ」「読み方も知らないのか」と言われることも、しょっちゅうです。それでもボクが“はくば”を貫くのは、ちゃんとした理由があるから。——今日はその“訳”を、できるだけフェアにお話しします。

そもそも、何の論争?
同じ「白馬岳」の三文字を、片や しろうまだけ(国土地理院の地図・山岳辞典が採用/登山者に多い)、片や はくばだけ(白馬村の人たちが日常で使う読み)。何十年も続く“地名論争”です。

えっ、同じ漢字なのに読みが2つ!?べつに、どっちでもいいじゃ〜ん。

それがね、おこちゃん。この“どっちで呼ぶか”には、山の歴史と、そこで暮らす人たちの想いがぎゅっと詰まってるんだ。順番に見ていこう。
「しろうま」派の言い分——雪形「代掻き馬」
しろうま側の根拠は、とても理にかなっています。春の雪解けに、白馬岳の山腹へ黒い馬の形の雪形(雪が解けて岩肌が現れる模様)が浮かびます。これが田んぼの土をならす「代掻き(しろかき)」の馬に見えた。農家はこの 「代掻き馬(しろかきうま)」の雪形が出たら田植えの準備、と農事暦の目印にしていました。
そこから山は 「代馬(しろうま)」 と呼ばれ、やがて“白い馬”のイメージと重なって「白馬」の字が当てられた——。つまり「白馬」はもともと「しろうま」の当て字。だから読みも「しろうま」が本来だ、というのが学術・地図側の立場です。これはこれで、筋が通っています。

写真:Jranar/Wikimedia Commons(CC BY 4.0)/無改変

雪形は、雪国の人びとが何百年も使ってきた“自然のカレンダー”じゃ。この黒い馬が現れたら田を起こし、苗代をつくる。「代馬(しろうま)」という呼び名には、農と山に生きた暮らしが刻まれておる。由来としては、とても美しい話じゃな。
そして、登山者に“しろうま”がここまで定着した決め手が、もう一つあります。深田久弥の名著『日本百名山』が、この山を「しろうまだけ」と記したこと。登山界のバイブルですから、その影響は絶大でした。ガイドブックや雑誌もそれにならい、一時は「はくばは間違い」とまで言われたほどです。

つまり登山者の“しろうま”は、いわば“本から広まった読み”。いっぽう地元の“はくば”は、暮らしのなかで受け継がれてきた読み。——どっちが正しいというより、“育った場所がちがう”んだよね。
「はくば」派の言い分——生きている地名
一方、地元はずっと「はくば」です。村の名は 白馬村(はくばむら)(昭和31年、北城村と神城村が合併して誕生)。駅は 白馬駅(はくばえき)。山頂直下の小屋は 白馬山荘(はくばさんそう)。ガイドの組織は 白馬山案内人組合(はくば)——大正8年(1919年)発足で、2019年に100周年を迎えました。地元の年配者や山岳関係者にも「はくば」と呼ぶ人が多い。

さらに興味深いのが、古い文献です。山岳専門誌『PEAKS』の検証では、江戸期の絵図や明治期の地理書に「白馬」を「はくば」と読ませる例が確認できる、とも報告されています(同誌は文政7年・1824年の絵図などを挙げています)。少なくとも 「はくば」という読みは、決して新しい言い間違いではない——というのが、地元側の主張です。
山頂に「日本初の小屋」を建てた人たちは、なんと呼んだか
白馬岳の山頂直下には、日本で最初の営業山小屋があります。明治39年(1906年)、松沢貞逸(まつざわていいつ) が開いた「頂上小屋」(のちの白馬山荘)です。北アルプス最古の歴史を持ち、彼はのちに白馬山案内人組合の初代組合長にもなりました。
山を仰ぎ、登り、山頂に小屋を建て、ガイドの組合をつくった——白馬の山を“暮らし”にしてきた人たちが、その小屋を「はくば山荘」と名づけ、山を「はくば」と呼んできた。由来がどうであれ、実際にその土地で生きて使われてきた言葉が「はくば」なのです。

“標準の読み”が、地元の言葉を上書きするとき
もう一つの論点。テレビや地図の世界には「読みを全国で統一する」仕組みがあり、その基準は辞典や国の地図の読みを優先しがちです。だから 地元が日常で使う読みより、“標準”とされた読みが優先されてしまう ことがある。地元の人が土地の言葉で読んでも、放送では“標準”に直される——地名の世界では、珍しくない話です。

なんで、地元の人がずっと使ってきた言葉を、勝手に変えちゃうの!?ひどくない!?

落ち着け、おこ。誰かが悪いわけではないのじゃ。地図も放送も、全国で読みをそろえる必要があった。ただ、その“標準”が、土地に生きる言葉をすくいきれなかった——それだけのこと。だからこそ、地元はいま“はくば”を取り戻そうとしておるのじゃ。
ちなみに、ボクのYouTubeにも「テレビで“しろうま”と言っていたよ」というコメントが、よく届きます。放送で耳にする読みは、たしかに“正しい”と感じやすいもの。でも放送は、全国の人に同じように伝わるよう、読みをそろえるのが役目です。その“全国の標準”と、土地で生きてきた読みが、ときにすれちがう——これもまた、どちらが間違いという話ではなく、役割のちがいなのだと思います。
ただ、フェアに付け加えます。国土地理院が地図に「しろうまだけ」を採るのは、地形図づくりの過程で関係自治体の申請をもとに読みが登録されたため、とされます。単純に外から押しつけられただけではない。実際、信濃毎日新聞も2022年に〈国土地理院は「しろうまだけ」を採用、地元では「はくばだけ」を広める動き〉と報じています。
だからこの問題は「どっちが正しい/間違い」では切れません。由来としての“しろうま”と、生きた地名としての“はくば”。次元のちがう二つが、ぶつかっている のです。

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大雪渓は真夏でも雪が残り、傾斜もそれなり。軽アイゼン(チェーンスパイク)があるだけで滑りにくくなり、安心感がまるで違います。※最新の残雪・ルート状況は山小屋や白馬村観光局で必ず確認を。
そして白馬岳は、日本屈指の“花の名山”
ここまで読み方の話をしてきましたが——そもそも白馬岳は、日本でも指折りの“花の名山”。これだけ呼び名で議論になるのも、それだけ多くの人に愛されている山だからです。
白馬岳一帯は国内有数の豪雪地帯。雪が多い分だけ森林限界が低く、広大なお花畑が広がります。さらに石灰岩や蛇紋岩(じゃもんがん)など変化に富んだ地質が、ほかでは見られない植物を育てます。白馬村の資料によれば、白馬岳の特有種だけで19種、白馬岳に由来する植物は20種。まさに高山植物研究の聖地です。
おもしろいのは、ここで見つかった固有種の多くが「シロウマ〜」と名づけられていること(シロウマアサツキ、シロウマリンドウ…)。植物学の世界でも“しろうま”が定着しました。山の名も、花の名も——この一帯は“読み”の奥が深いのです。

白馬岳が花の宝庫なのは、雪と岩のおかげじゃ。豪雪で夏まで雪が残り、雪解けの水が乾く間もなく次々と花が咲く。しかも蛇紋岩のやせた土は、競争に弱い貴重な花たちの隠れ家になるのじゃ。だからここでしか出逢えぬ花が、いくつもある。
🌸 白馬連峰で出会える高山植物(写真は八方尾根で撮影。白馬岳一帯でも同じ花々に出逢えます)











お花の名前あてっこ、大好き〜。図鑑を片手に歩くと、ひとつの稜線で何時間でも遊べちゃうんだよね。
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📖 花の名前がわかると、白馬の稜線は10倍楽しい
「これ、何ていう花だろう?」——その場で名前がわかると、山の記憶がぐっと鮮やかに。文庫サイズの図鑑なら、ザックに気軽に忍ばせられます。シロウマ〜の名を持つ花も、きっと見つかります。
雲上の楽しみ——ケーキ、夕食、そして満天の星
白馬岳の山頂直下、標高2,832mに建つ白馬山荘には、雲上のレストラン&喫茶「スカイプラザ白馬」が併設されています。ここで味わえるのが、ガトーショコラやチーズケーキ、パンケーキといった本格スイーツ。ハンドドリップで淹れるコーヒーと一緒に、雲海を眺めながらのティータイムは格別です。

※コーヒーは500円ほど。ケーキ・ケーキセットの最新メニューと価格は、白馬山荘 公式サイト(白馬館)でご確認ください。
そして山小屋の醍醐味は、なんといっても夕食。白馬山荘の夕ごはんは、ハンバーグや信州の味が並ぶボリューム満点の一皿。歩き疲れた体に、温かいご飯とお味噌汁が染みわたります。


ごはん、おかわり〜!山で食べるごはんって、なんでこんなに美味しいんだろ。もう3杯目いっちゃう!

わかる……でも明日も登るんだから、食べすぎ注意だよ(笑)。山小屋のごはんは、一日歩いたごほうび。しっかり食べて、ぐっすり眠ろう。
日が暮れれば、白馬山荘の前は満天の星。標高2,832m、街の灯りがほとんど届かない場所で見上げる星空は、一生ものの思い出になります。


星を見たあとの温かい飲み物が、また格別なんだよね〜。山の夜は冷えるから、ココアでもすすりながら、ゆっくり夜空を眺めてね。
イッチーの結論——だから「はくば」と呼びたい
こうして白馬の山でひと晩を過ごすと、この山がますます好きになる。そして、もう一度あの“名前”のことを考えたくなるのです。——いま白馬岳の山頂に立つと、標識にはローマ字で 「Mt.Shiroumadake(Mt.Hakubadake)」 と、両方の読みが併記されています。長く続く論争のすえ、どちらの言い分にも理がある、と認められた証なのかもしれません。

雪形の由来は、ボクも大好きです。代掻き馬の話は、山と農の暮らしがつながった美しい物語。だから「しろうま」を否定する気はありません。でも、地名は生きもの。今その土地の人が呼んでいる名前にこそ、敬意を払いたい。白馬村、白馬駅、白馬山荘、白馬山案内人組合——みんな「はくば」。ならば、ボクも「はくば岳」と呼びます。

“読み方も知らないのか”と言われても、ボクはこう答えるよ。「知ってます。知った上で、地元の言葉で呼んでいます」って。由来は由来として大切にしながら、その土地で生きてきた読みを尊重したいんだ。
最後に、あなたに聞きたい。あなたは「はくば」派?それとも「しろうま」派?理由もぜひ、コメントで教えてください。——この山の名前は、それだけで一晩語れます。
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🏔 “はくば”を、あなたの足で確かめに行こう
読み方の答えは、登ってみればきっと腑に落ちます。白馬岳は北アルプス入門にもおすすめ。前泊して朝いちばんから歩き出すのが王道です。
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八方尾根からは、この白馬三山がきれいに望めます。👉 唐松岳 日帰り登山ガイド|八方池・高山植物・アクセス
花の見頃を知りたいなら 👉 山の花 見頃カレンダー|花の百名山・名所の見頃時期
もうひとつの“花の名山”は 👉 平標山 花の百名山ガイド|松手山ルートのお花畑
よくある質問(FAQ)
Q. 白馬岳は「はくば」と「しろうま」、どっちが正しい読み方ですか?
Q. なぜ白馬岳は「しろうま」と読まれるのですか?
Q. 白馬岳は登山初心者でも登れますか?
Q. 白馬大雪渓を登るのに軽アイゼンは必要ですか?
Q. 白馬岳のベストシーズンと花の見頃はいつですか?
📚 参考・出典
※ 地図など公的な表記は「しろうまだけ」が採用されています。本記事は、その由来を尊重したうえで、地元で受け継がれてきた「はくば」という読みを大切にしたい——という立場で書いた“読みもの(コラム)”です。事実関係は下記をもとにしています。
- 国土地理院(地形図の読み「しろうまだけ」)
- 信濃毎日新聞「白馬岳はしろうまだけ?はくばだけ? 国土地理院は『しろうまだけ』を採用 地元では『はくばだけ』を広める動き」(2022年1月29日)
- 白馬村「白馬岳の高山植物」(特有種・由来植物の種数)
- 白馬館(白馬山荘 公式)
- 「白馬岳」「松沢貞逸」(Wikipedia)/松沢貞逸が頂上小屋を開いたのは明治39年(1906年)
- 『PEAKS』「シロウマか、ハクバか、それが問題だ」
- 深田久弥『日本百名山』(白馬岳の読みを「しろうま」としている)
読み・由来には諸説あり、年代や経緯には資料によって幅があります。お気づきの点があればコメントでお知らせください。随時、出典にあたって見直します。
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