コラム・お役立ち

白馬岳は「はくば」か「しろうま」か——山頂に“日本初の小屋”を建てた人たちは、なんと呼んだか

itadaki-meshi@1129
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ボクは YouTube で、白馬の山をずっと「はくば」と呼び続けています。白馬岳(はくばだけ)、白馬三山(はくばさんざん)、白馬大雪渓(はくばだいせっけい)……。これは何となくではなく、ちゃんと“訳(わけ)”があってのことです。

もちろん、「それは“しろうま”だ」「読み方も知らないのか」と言われることも、しょっちゅうです。それでもボクが“はくば”を貫くのは、ちゃんとした理由があるから。——今日はその“訳”を、できるだけフェアにお話しします。

八方尾根から望む白馬三山
八方池山荘の少し先から望む白馬三山(はくばさんざん)。右から白馬岳・杓子岳・白馬鑓ヶ岳。実際にイッチーが八方尾根から撮影した一枚です。

そもそも、何の論争?

同じ「白馬岳」の三文字を、片や しろうまだけ(国土地理院の地図・山岳辞典が採用/登山者に多い)、片や はくばだけ(白馬村の人たちが日常で使う読み)。何十年も続く“地名論争”です。

おこちゃん

おこちゃん

えっ、同じ漢字なのに読みが2つ!?べつに、どっちでもいいじゃ〜ん。

イッチー

イッチー

それがね、おこちゃん。この“どっちで呼ぶか”には、山の歴史と、そこで暮らす人たちの想いがぎゅっと詰まってるんだ。順番に見ていこう。

「しろうま」派の言い分——雪形「代掻き馬」

しろうま側の根拠は、とても理にかなっています。春の雪解けに、白馬岳の山腹へ黒い馬の形の雪形(雪が解けて岩肌が現れる模様)が浮かびます。これが田んぼの土をならす「代掻き(しろかき)」の馬に見えた。農家はこの 「代掻き馬(しろかきうま)」の雪形が出たら田植えの準備、と農事暦の目印にしていました。

そこから山は 「代馬(しろうま)」 と呼ばれ、やがて“白い馬”のイメージと重なって「白馬」の字が当てられた——。つまり「白馬」はもともと「しろうま」の当て字。だから読みも「しろうま」が本来だ、というのが学術・地図側の立場です。これはこれで、筋が通っています。

代掻き馬の雪形(白馬岳)
白馬岳の山腹に現れる雪形「代掻き馬(しろかきうま)」。これが“しろうま”の語源とされる
写真:JranarWikimedia CommonsCC BY 4.0)/無改変
らいちゃん

らいちゃん

雪形は、雪国の人びとが何百年も使ってきた“自然のカレンダー”じゃ。この黒い馬が現れたら田を起こし、苗代をつくる。「代馬(しろうま)」という呼び名には、農と山に生きた暮らしが刻まれておる。由来としては、とても美しい話じゃな。

そして、登山者に“しろうま”がここまで定着した決め手が、もう一つあります。深田久弥の名著『日本百名山』が、この山を「しろうまだけ」と記したこと。登山界のバイブルですから、その影響は絶大でした。ガイドブックや雑誌もそれにならい、一時は「はくばは間違い」とまで言われたほどです。

イッチー

イッチー

つまり登山者の“しろうま”は、いわば“本から広まった読み”。いっぽう地元の“はくば”は、暮らしのなかで受け継がれてきた読み。——どっちが正しいというより、“育った場所がちがう”んだよね。

「はくば」派の言い分——生きている地名

一方、地元はずっと「はくば」です。村の名は 白馬村(はくばむら)(昭和31年、北城村と神城村が合併して誕生)。駅は 白馬駅(はくばえき)。山頂直下の小屋は 白馬山荘(はくばさんそう)。ガイドの組織は 白馬山案内人組合(はくば)——大正8年(1919年)発足で、2019年に100周年を迎えました。地元の年配者や山岳関係者にも「はくば」と呼ぶ人が多い。

白馬岳から見る杓子岳と白馬鑓ヶ岳
白馬岳の山頂から、杓子岳(しゃくしだけ)・白馬鑓ヶ岳(はくばやりがたけ)へと続く稜線。尾根上には白馬山荘も見えます。ここを歩く人は、みんな「はくば」と呼ぶ。イッチー撮影。

さらに興味深いのが、古い文献です。山岳専門誌『PEAKS』の検証では、江戸期の絵図や明治期の地理書に「白馬」を「はくば」と読ませる例が確認できる、とも報告されています(同誌は文政7年・1824年の絵図などを挙げています)。少なくとも 「はくば」という読みは、決して新しい言い間違いではない——というのが、地元側の主張です。

山頂に「日本初の小屋」を建てた人たちは、なんと呼んだか

白馬岳の山頂直下には、日本で最初の営業山小屋があります。明治39年(1906年)、松沢貞逸(まつざわていいつ) が開いた「頂上小屋」(のちの白馬山荘)です。北アルプス最古の歴史を持ち、彼はのちに白馬山案内人組合の初代組合長にもなりました。

山を仰ぎ、登り、山頂に小屋を建て、ガイドの組合をつくった——白馬の山を“暮らし”にしてきた人たちが、その小屋を「はくば山荘」と名づけ、山を「はくば」と呼んできた。由来がどうであれ、実際にその土地で生きて使われてきた言葉が「はくば」なのです。

白馬山荘
白馬岳山頂直下に立つ白馬山荘(はくばさんそう)。1906年開業、日本最古の営業山小屋。イッチー撮影。

“標準の読み”が、地元の言葉を上書きするとき

もう一つの論点。テレビや地図の世界には「読みを全国で統一する」仕組みがあり、その基準は辞典や国の地図の読みを優先しがちです。だから 地元が日常で使う読みより、“標準”とされた読みが優先されてしまう ことがある。地元の人が土地の言葉で読んでも、放送では“標準”に直される——地名の世界では、珍しくない話です。

おこちゃん

おこちゃん

なんで、地元の人がずっと使ってきた言葉を、勝手に変えちゃうの!?ひどくない!?

らいちゃん

らいちゃん

落ち着け、おこ。誰かが悪いわけではないのじゃ。地図も放送も、全国で読みをそろえる必要があった。ただ、その“標準”が、土地に生きる言葉をすくいきれなかった——それだけのこと。だからこそ、地元はいま“はくば”を取り戻そうとしておるのじゃ。

ちなみに、ボクのYouTubeにも「テレビで“しろうま”と言っていたよ」というコメントが、よく届きます。放送で耳にする読みは、たしかに“正しい”と感じやすいもの。でも放送は、全国の人に同じように伝わるよう、読みをそろえるのが役目です。その“全国の標準”と、土地で生きてきた読みが、ときにすれちがう——これもまた、どちらが間違いという話ではなく、役割のちがいなのだと思います。

ただ、フェアに付け加えます。国土地理院が地図に「しろうまだけ」を採るのは、地形図づくりの過程で関係自治体の申請をもとに読みが登録されたため、とされます。単純に外から押しつけられただけではない。実際、信濃毎日新聞も2022年に〈国土地理院は「しろうまだけ」を採用、地元では「はくばだけ」を広める動き〉と報じています。

だからこの問題は「どっちが正しい/間違い」では切れません。由来としての“しろうま”と、生きた地名としての“はくば”。次元のちがう二つが、ぶつかっている のです。

白馬大雪渓を登る登山者
残雪期の白馬大雪渓(はくばだいせっけい)を登る。地図では「しろうま」、地元では「はくば」と呼ばれる谷を、イッチーが実際に登りました。

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そして白馬岳は、日本屈指の“花の名山”

ここまで読み方の話をしてきましたが——そもそも白馬岳は、日本でも指折りの“花の名山”。これだけ呼び名で議論になるのも、それだけ多くの人に愛されている山だからです。

白馬岳一帯は国内有数の豪雪地帯。雪が多い分だけ森林限界が低く、広大なお花畑が広がります。さらに石灰岩や蛇紋岩(じゃもんがん)など変化に富んだ地質が、ほかでは見られない植物を育てます。白馬村の資料によれば、白馬岳の特有種だけで19種、白馬岳に由来する植物は20種。まさに高山植物研究の聖地です。

おもしろいのは、ここで見つかった固有種の多くが「シロウマ〜」と名づけられていること(シロウマアサツキ、シロウマリンドウ…)。植物学の世界でも“しろうま”が定着しました。山の名も、花の名も——この一帯は“読み”の奥が深いのです。

らいちゃん

らいちゃん

白馬岳が花の宝庫なのは、雪と岩のおかげじゃ。豪雪で夏まで雪が残り、雪解けの水が乾く間もなく次々と花が咲く。しかも蛇紋岩のやせた土は、競争に弱い貴重な花たちの隠れ家になるのじゃ。だからここでしか出逢えぬ花が、いくつもある。

🌸 白馬連峰で出会える高山植物(写真は八方尾根で撮影。白馬岳一帯でも同じ花々に出逢えます)

ニッコウキスゲ(白馬連峰の高山植物)
ニッコウキスゲ
シラネアオイ(白馬連峰の高山植物)
シラネアオイ
ハクサンシャクナゲ(白馬連峰の高山植物)
ハクサンシャクナゲ
コマクサ(白馬連峰の高山植物)
コマクサ
チングルマ(白馬連峰の高山植物)
チングルマ
ハクサンチドリ(白馬連峰の高山植物)
ハクサンチドリ
タカネバラ(白馬連峰の高山植物)
タカネバラ
ミヤマキンポウゲ(白馬連峰の高山植物)
ミヤマキンポウゲ
ヨツバシオガマ(白馬連峰の高山植物)
ヨツバシオガマ
イワカガミ(白馬連峰の高山植物)
イワカガミ
きのちゃん

きのちゃん

お花の名前あてっこ、大好き〜。図鑑を片手に歩くと、ひとつの稜線で何時間でも遊べちゃうんだよね。

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📖 花の名前がわかると、白馬の稜線は10倍楽しい

「これ、何ていう花だろう?」——その場で名前がわかると、山の記憶がぐっと鮮やかに。文庫サイズの図鑑なら、ザックに気軽に忍ばせられます。シロウマ〜の名を持つ花も、きっと見つかります。

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雲上の楽しみ——ケーキ、夕食、そして満天の星

白馬岳の山頂直下、標高2,832mに建つ白馬山荘には、雲上のレストラン&喫茶「スカイプラザ白馬」が併設されています。ここで味わえるのが、ガトーショコラやチーズケーキ、パンケーキといった本格スイーツ。ハンドドリップで淹れるコーヒーと一緒に、雲海を眺めながらのティータイムは格別です。

白馬山荘 スカイプラザのケーキ
スカイプラザ白馬の絶品スイーツ。ガトーショコラ・チーズケーキ・パンケーキ。標高2,832mで味わう、雲上のティータイム。イッチー撮影。

※コーヒーは500円ほど。ケーキ・ケーキセットの最新メニューと価格は、白馬山荘 公式サイト(白馬館)でご確認ください。

そして山小屋の醍醐味は、なんといっても夕食。白馬山荘の夕ごはんは、ハンバーグや信州の味が並ぶボリューム満点の一皿。歩き疲れた体に、温かいご飯とお味噌汁が染みわたります。

白馬山荘の夕食
白馬山荘の夕食。ハンバーグに小鉢、味噌汁、ふっくらごはん。山小屋ごはんは、一日歩いたごほうびです。イッチー撮影。
おこちゃん

おこちゃん

ごはん、おかわり〜!山で食べるごはんって、なんでこんなに美味しいんだろ。もう3杯目いっちゃう!

イッチー

イッチー

わかる……でも明日も登るんだから、食べすぎ注意だよ(笑)。山小屋のごはんは、一日歩いたごほうび。しっかり食べて、ぐっすり眠ろう。

日が暮れれば、白馬山荘の前は満天の星。標高2,832m、街の灯りがほとんど届かない場所で見上げる星空は、一生ものの思い出になります。

白馬山荘前の星空
白馬山荘の前から見上げた星空。標高2,832m、降るような星の海。イッチー撮影。
きのちゃん

きのちゃん

星を見たあとの温かい飲み物が、また格別なんだよね〜。山の夜は冷えるから、ココアでもすすりながら、ゆっくり夜空を眺めてね。

イッチーの結論——だから「はくば」と呼びたい

こうして白馬の山でひと晩を過ごすと、この山がますます好きになる。そして、もう一度あの“名前”のことを考えたくなるのです。——いま白馬岳の山頂に立つと、標識にはローマ字で 「Mt.Shiroumadake(Mt.Hakubadake)」 と、両方の読みが併記されています。長く続く論争のすえ、どちらの言い分にも理がある、と認められた証なのかもしれません。

白馬岳の山頂標識 Mt.Shiroumadake Mt.Hakubadake 両読み併記
白馬岳(標高2,932m)の山頂標識。ローマ字には 「Mt.Shiroumadake(Mt.Hakubadake)」 と、“しろうま”“はくば”の両方の読みが併記されています。イッチー撮影。

雪形の由来は、ボクも大好きです。代掻き馬の話は、山と農の暮らしがつながった美しい物語。だから「しろうま」を否定する気はありません。でも、地名は生きもの。今その土地の人が呼んでいる名前にこそ、敬意を払いたい。白馬村、白馬駅、白馬山荘、白馬山案内人組合——みんな「はくば」。ならば、ボクも「はくば岳」と呼びます。

イッチー

イッチー

“読み方も知らないのか”と言われても、ボクはこう答えるよ。「知ってます。知った上で、地元の言葉で呼んでいます」って。由来は由来として大切にしながら、その土地で生きてきた読みを尊重したいんだ。

最後に、あなたに聞きたい。あなたは「はくば」派?それとも「しろうま」派?理由もぜひ、コメントで教えてください。——この山の名前は、それだけで一晩語れます。

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🏔 “はくば”を、あなたの足で確かめに行こう

読み方の答えは、登ってみればきっと腑に落ちます。白馬岳は北アルプス入門にもおすすめ。前泊して朝いちばんから歩き出すのが王道です。

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よくある質問(FAQ)

Q. 白馬岳は「はくば」と「しろうま」、どっちが正しい読み方ですか?
A. 地図や辞典など公的な表記は「しろうま」が採用されています。一方、白馬村・白馬駅・白馬山荘・白馬山案内人組合など、地元では「はくば」が日常的に使われています。由来としての“しろうま”、生きた地名としての“はくば”——どちらが間違いというより、次元の違う二つが併存しているのが実情で、山頂標識にも両方の読みが併記されています。
Q. なぜ白馬岳は「しろうま」と読まれるのですか?
A. 春の雪解けに山腹へ現れる雪形が、田起こしに使う「代掻き馬(しろかきうま)」に見えたことが由来とされます。そこから「代馬(しろうま)」と呼ばれ、のちに“白馬”の字が当てられました。深田久弥『日本百名山』が「しろうまだけ」と記したことも、登山者への定着を後押ししました。
Q. 白馬岳は登山初心者でも登れますか?
A. 標高2,932mの本格的な高山で、白馬大雪渓を含むルートは中級以上の体力と装備が必要です。白馬山荘泊の1泊2日が一般的。はじめての北アルプスなら、まずは隣の唐松岳(八方尾根)など難度の低い山で経験を積むのがおすすめです。
Q. 白馬大雪渓を登るのに軽アイゼンは必要ですか?
A. はい、必携です。大雪渓は真夏でも雪が残り傾斜もあるため、軽アイゼン(チェーンスパイク)で滑落リスクを下げられます。最新の残雪・ルート状況は山小屋や白馬村観光局で必ず確認してください。
Q. 白馬岳のベストシーズンと花の見頃はいつですか?
A. 一般的な登山適期は7〜9月。高山植物のお花畑は7月中〜下旬が見頃の目安ですが、雪の量で年ごとに前後します。白馬岳は特有種を含む豊富な高山植物で知られる“花の名山”です。最新の開花状況は公式情報でご確認ください。

📚 参考・出典

※ 地図など公的な表記は「しろうまだけ」が採用されています。本記事は、その由来を尊重したうえで、地元で受け継がれてきた「はくば」という読みを大切にしたい——という立場で書いた“読みもの(コラム)”です。事実関係は下記をもとにしています。

読み・由来には諸説あり、年代や経緯には資料によって幅があります。お気づきの点があればコメントでお知らせください。随時、出典にあたって見直します。

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イッチー(山メシ隊長)

「登山をもっと楽しく、おいしく。」がモットー。おいしいものがあるから山に登る! 山ごはん・山小屋グルメ・ギアの実体験を、仲間のらいちゃん・おこちゃん・きのちゃんと一緒に全国の山から発信中です。

※本ブログの身体づくり・安全に関する情報は、運営者・一水孝志(理学療法士/アスレティックトレーナー)が監修しています。詳しいプロフィール →

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おんせん県おおいた生まれの山メシ隊長。仲間とワイワイ登る山が好き。YouTube「イッチーの頂メシ」で動画も発信中。
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